カテゴリー別アーカイブ: ■ 日本語教師の参考文献

『日本語教育のためのコーパス調査入門』


李在鎬、石川慎一郎、砂川有里子(2012)『日本語教育のためのコーパス調査入門』くろしお出版

コーパスとは何か、コーパスを日本語教育にどう活用できるのかを、初心者向けにわかりやすく解説してくれる入門書です。

これまで、コーパスとは一体何なのかも、日本語教師にとってなぜコーパスが必要なのかも よくわかっていませんでしたが、この本を読んで目が開かれる思いでした。

コーパスとは、簡単にいうと、「実際に使われている日本語のデーター集」のようなものです。膨大な量の「実際の日本語」が集められています。

本の中に出てきた例ですが、例えば日本語を学習している人が「幸福」と「幸せ」と「ハッピー」の使い分けに迷ったとします。

わたしは幸福だ。
わたしは幸せだ。
わたしはハッピーだ。

どれも「I am happy.」という意味ですが、印象が少し違う気がします。

それを、ひとりの日本語教師に聞いてみて、返ってきた答えは果たして「正解」でしょうか。

言葉の選び方には、その人の年齢、性別、職業、キャラクターなど、さまざまな要素が関わってくるので、ひとりの日本語教師が持っている「感覚」が、日本語の「正解」ではないはずです。

たとえば、わたしだったら、温泉旅行に行って、お風呂上りにビールでも飲んで、「あー幸せ」とはいっても、「あーハッピー」とは言わないような気がしますが、10代の若者だったら言うかもしれません。

そんなとき、客観的な判断材料を与えてくれるのがコーパスです。

・「~なければならない」、「~ないといけない」、「~なくてはいけない」はどんなふうに使い分けられているのか

・「私たち」、「私達」のどちらの表記が一般的なのか

などなど、日本語のさまざまな疑問に答えを探すとき、自分の言語感覚も大切ですが、コーパスを利用するという選択肢を持っているのは強い!と感じました。

「現代日本語書き言葉均衡コーパス」(少納言)
http://www.kotonoha.gr.jp/shonagon/

 
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『日本語教育のためのコミュニケーション研究』


野田尚史・編(2012 くろしお出版)
日本語教育のためのコミュニケーション研究

日本語の授業の目的は、「日本語が上手になること」です。
では、どんな日本語が「上手な日本語」なのでしょうか。

日本語教師をしていると、ついつい「文法的な正しさ」に執着してしまい、その種の正しさを、「上手さ」のように考えてしまいがちです。

でも、ことばの中には、いくら文法的に正しくても、使うと少し違和感があったり、その場にふさわしくないものがあります。コミュニケーションのために必要な「上手さ」とは、どちらかというと文法的な正しさよりも、そういった「ふさわしさ」のようなものなのかもしれません。

もっとも単純な例として

「あなたの名前は何ですか」

という文は、文法的には正しい文です。でも、人に向かってこんなふうに名前を聞く機会が果たしてあるでしょうか。言われたほうは、どんな印象を持つでしょうか。

それなのに、これが教科書にのっていると、そんな違和感も忘れて、「これが正しい日本語だ」といわんばかりに、授業で繰り返し練習をしてしまうのが、あぶないところです。

「あなたの名前は何ですか」くらいの違和感は、大した問題にはならないかもしれませんが、場合によっては、ことばの使い方ひとつで、決定的にコミュニケーションに「失敗」してしまうことも起こり得ます。

日本人とのコミュニケーションにおいて、学習者の人たちが不必要な誤解を招いたり、良くない印象を与えてしまうことがないように、日本語教育の現場では、「日本語のコミュニケーションとはどういうものなのか」を丁寧に伝えていく必要があるのだと思います。

(あくまでも、不利益を被ることのないように知識として伝え、あとは本人の選択に任せるということで、日本人らしく話すことを強要するという意味ではありません。)

では、実際にはどのようにコミュニケーションを教えたらいいのか。
出発点は、教える以前に、まずは「知ること」なのだと思います。普段自分たちが日常で行っている、場面ごとのさまざまなコミュニケーションをよく観察すること。研究すること。そして、その本当のコミュニケーションを教室の中に持ってくること、でしょうか。

この本は、コミュニケーション重視の日本語教育を実現するために、どんな研究、教授法、教科書、教師研修が必要なのかという問いに対する10人の先生方の見解がまとめられた一冊です。とてもおもしろい内容です。

この本を読んで、気づかされたことがたくさんありました。
まずは、「実際に使われている日本語」をよく観察しようとせず「教科書の日本語」にしばられている自分を、少しずつ変えていきたいと思いました。


目次

「日本語教育に必要なコミュニケーション研究」野田尚史

第一部 母語話者の日本語コミュニケーション

「非母語話者には難しい母語話者の日本語コミュニケーション」カノックワン・ラオハブラナキット・片桐
「日本語教師には見えない母語話者の日本語コミュニケーション」清ルミ
「母語話者には意識できない日本語会話のコミュニケーション」宇佐美まゆみ

第二部 非母語話者の日本語コミュニケーション

「非母語話者の日本語コミュニケーションの問題点」奥野由紀子
「非母語話者の日本語コミュニケーションの工夫」迫田久美子
「非母語話者の日本語コミュニケーション能力」山内博之

第三部 日本語のコミュニケーション教育

「コミュニケーションのための日本語教育の方法」品田潤子
「日本語のコミュニケーション教育を阻む要因」徳井厚子
「日本語教師に求められるコミュニケーション教育能力」嶋田和子

 
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第二言語習得の入門書

第二言語習得の入門書を三冊読んでみました。

一冊目。言語を問わず、外国語を学んでいる人、教えている人には興味深い内容だと思います。

白井恭弘(2004)『外国語学習に成功する人、しない人―第二言語習得論への招待』岩波書店 (岩波科学ライブラリー)

この本を元に、4年後まとめなおされたのが『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』(岩波新書2008)です。


二冊目。日本語教師向きです。第二言語習得の研究でわかってきたことの中から、とくに日本語教師が知っておくべきことがまとめられています。とても参考になりました。

大関浩美著、白井恭弘監修(2010)『日本語を教えるための第二言語習得論入門』くろしお出版


三冊目。第二言語習得研究にもう一歩進みたい日本語教師の人向け。

迫田久美子(2002)『日本語教育に生かす第二言語習得研究』アルク

第二言語習得というのは、「人の学び」を対象にしている分野です。人にはそれぞれの性格、能力、学習目的などの個人差があるので、全ての人に共通する答えはありません。どんなに研究が進んでも、「こう教えるのが正解だ」、「こう学ぶのが正しい」というような、「どんなケースにも共通の正しい答え」はないということだと思います。

第二言語習得の研究で明らかになっていることを教師がおさえておいて、そのときどきで必要な方法を柔軟に選べるようになることが大切なのだと思いました。

 
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